2009年8月24日月曜日

第54号(2009.08.24)

□ Nagoya Gakuin University, Faculty of Economics
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■□□> コジマガ kojimag@    第54号
□───────────────────――2009.08.24─――
□ Kojima seminar Mail Magazine, Vol.054
*等幅フォント(MSゴチックなど)でご覧ください。


ゼミOB会恒例の夏の飲み会がありました。お盆のど真ん中ということもあり、
例年よりも出席者は少なめでしたが、その分、一人ひとりいろいろな話をする
ことができました。特に、数年ぶりに顔を見せてくれたメンバ達の活躍ぶりを
聞けば、自分のことのように嬉しく思います。これが自分も頑張らねばという
力を与えてくれます。このような機会があれば、また是非、お出かけください。


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■NGU短信 > 「2009夏のシンポジウム in 愛知」の段
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☆関連サイト:http://www.cccties.org/event/090907/audience.html
☆関連サイト:http://www.minnade-daigaku.com


来る9月7日(月)午後と9月8日(火)午前の2日間にわたって本学でシンポジウム
が開催されます。『ICTによる大学連携と「知域」貢献』をテーマとして本学と
NPO法人CCC-TIESの共催です。TIESを利用して、大学が広域連携しながら、質の
高い教育を提供しようということを主旨としています。昨年は札幌大学で開催
されましたが、今年は本学での開催となりました。

今年の戦略的大学連携支援事業として採択された『北海道・関東・東海・近畿
の大学連携による「知域」拡大プロジェクト』(帝塚山大学、札幌大学、創価
大学、明治薬科大学、愛知学院大学)と密接に関連しており、プロジェクトに
関する基調講演が行われます。

この事業には、現在開催中の産経新聞社との企画「産経eカレッジ」や海外への
授業配信、産官学連携事業など、ネットを利用した多彩な取り組みがあります。
現在はひとつの大学でなく、多くの大学が参加し、博物館・美術館や経済団体
などとコラボする時代になっています。特に地場産業や地域文化など知的資産
となりうるものが全国に散らばっています。優れたコンテンツを繋いで、使い
やすく活用することが地域貢献となります。

サントリー創業者の鳥井信治郎に「やってみなはれ」という名言があります。
評論家のようにリスクをとらないまま知った顔をするよりも、敢えて挑戦し、
その結果から次々に道を切り拓いてゆくことが、激動の時代には必要である
ように思います。この事業も挑戦ばかりですが、ひとつでも大当たりが出れば
ラッキーでしょう。

さて、9月7日(月)の面白いイベントには「第1回 全国大学対抗TIESタイピング
大会」の決勝戦があります。全国のTIES参加大学から選抜された5大学の代表に
よってタイピング大会の決勝戦を行います。もちろん本学もタイプの達人らが
出場します。昨年は400字/分というスピードタイプを生で見ましたが、今年は
各大学の代表がライブを通して参加するという、何とも凄い光景が見られそう
でワクワクしています。


―――――――――――――――――――――――≪ books ≫――
■ 本の紹介
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☆関連サイト:http://store.shopping.yahoo.co.jp/7andy/32267690.html

『ブラック・スワン』,ニコラス・タレブ(望月衛/訳)ダイヤモンド社
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世界で話題となった本の邦訳ということでしょうか、普通の書店で平積みに
なっていました。その光景を見て「この本の内容をすんなり理解できる人が
いったいどれぐらいいるのだろうか」という疑問を持ちました。というのも
これは哲学・歴史・心理学を扱っており、金融工学やオプション、経済学と
統計学、数学、そしてネットワーク理論という非常に広い範囲をカバーして
いるからです。さらに翻訳書なので独特な言い回しで読みづらさがあります。
ということもあって、Amazonでのレビューの評価もまちまちです。

筆者のニコラスタレブは金融トレーダーです。現実に起こる株式市場の動き
は、経済学者や数学者・統計学者よりも圧倒的に体験しています。金融工学
の分野には、有名なブラック・ショールズ理論があります。これは金融派生
商品の価格決定を数学的に美しい式で説明したものです。物理や経済学での
均衡という世界へ誘った功績で、この研究に携わったショールズとマートン
は1997年にノーベル経済学賞の栄誉を受けました。

その後、ノーベル賞の理論が後押しとなって、アメリカの金融バブルを加速
させました。理論に基づくリスク管理によって、崩壊の危なさは大きくなり、
絶対にあり得ないと思われていた株価大暴落が起こりました。最近の悲惨な
現実によって米国バブル経済とともにこの理論への信用が脆くも崩れ去った
ことは、金融関係の仕事の方であれば、よくご存じと思います。

では、なぜ理論は現実を説明できなかったのでしょう。作者によれば我々が
「月並みの国」でなく「果ての国」に住んでいることを忘れているからです。
作者が表現する「月並み」というのは正規分布のことです。

統計学で必ず学習するのが正規分布です。これはガウスの功績でガウス分布
とも呼ばれます。この分布は数学的に極めて扱いやすい性質を持っており、
「正規分布は分布の中の王様」というように教えています。確かに身の回り
で起こる確率現象を教えるときには、正規分布を使えば分かり易くなります。
サイコロやくじなど作られた実験結果を計算すると、その操作から釣り鐘状
の正規分布が現れます。平均が山の頂上となり、標準偏差の大きさで裾野の
広さが決定されます。

「月並み」という言葉には「とんでもない値は現れない」ということを意味
しています。例えば、男性の平均身長が170cmである場合、大多数の人間が
150cm~190cmの範囲に入り、5mを超える巨大人間や一寸法師のような5cmの
小人は絶対にいないと考えます。正規分布の世界では、このような人は存在
しません。一方、「果ての国」では凡人には考えられない値が存在します。

一例として日本の世帯所得を考えてみます。平均は約580万円だそうですが、
恐らく実感よりも多いなぁと思うのではないでしょうか。世帯数が最も多い
階級は年収350万円周辺で、中央値は約450万円です。すなわち、ほとんどは
平均よりも低いことを意味しています。この差の原因は、ほんの一握りしか
いないとてつもない大金持ちにあります。年収50億円という金持ちが全体の
平均を引き上げています。つまり所得分布は正規分布ではなく、歪んだ分布
(不平等)をしているのです。

このようにとてつもなく大きな値が出現する現象は現代にはよく見られます。
「一人勝ち」「独占」「デファクトスタンダード」などはMS、mixi、iPodと
いった例を出すまでもありません。ロングテールもこのひとつの現象ですし、
最近ではネットワーク理論で説明されます。面白いのが「マタイ効果」です。
キリスト教のマタイの福音書にもこの現象の記述があるそうです。

また、現実から導かれた理論で現在や将来を説明できるかどうかをタレブは
疑っています。計量経済学は、経済学の理論をデータで検証する学問ですが、
著者にとっては格好の標的になっています。確かに推定値の誤差は正規分布
という仮定をおいて説明しています(確かに正規分布であることは誰が保証
しているのでしょう?)統計学者もしかりで、哲学者に至っては彼の批評に
かかってボロボロにされています。

「ブラックスワン、黒い白鳥などいないのだ」といってもそれが見つかれば
それまでの考えは、吹っ飛んでしまいます。常識ではあり得ない事象を黒い
白鳥を喩えとして話を展開してます。上巻に「七面鳥の悲劇」の喩えがあり
ました。七面鳥は12月24日まで、餌をもらい幸せな毎日を過ごしています。
それが次の日、自分が食卓を飾るとは決して思いもよらないということです。
なぜ我々はそのような常識ではあり得ない重大なことを見過ごしてしまうか
を説明しています。(アマゾンで低い評価を付けた評者は、きっとこの辺り
の話題展開がダルだったのでしょう。)

以上の書評を読んで、それでも黒い白鳥を読みたいと思った人は、その前に
神永正博『不透明な時代を見抜く「統計思考力」』をお薦めします。この本
の中にブラックスワンの記述がありますから、きっと役立つことでしょう。
証券会社に勤務している皆さんや銀行・保険といった金融関係者であれば、
挑戦する価値はあるかも知れません。


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■編□集□後□記□
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計画を開始してから1年が経ちます。これをまとめる仕事に追われました。
3年ぶりの大きな仕事でしたが、「果報は寝て待て」です。