2006年9月20日水曜日

第22号(2006.09.20)

□ Nagoya Gakuin University, Faculty of Economics
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■□□> コジマガ kojimag@    第22号
□───────────────────――2006.09.20─――
□ Kojima seminar Mail Magazine, Vol.022
*等幅フォント(MSゴチックなど)でご覧ください。

 秋の訪れが日々感じられるこの頃です。感傷に浸るつもりはありませ
んが、走り続けるとある瞬間、次のステージに達することがあるように
思います。多くの時間や情熱を注ぎ込んだ結果、OB会とのコンタクトや
ゼミ生指導に距離があいてしまったかなと反省しています。
 皆さんより先に生きているものとして、いろいろな経験をしなくては
なりません。この5ヶ月の体験から得たものを何らかの形で伝えられる
と思います。「また先生は丸くなった!」と嘆かれるかも知れませんが
次にお会いできる機会を楽しみに。


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■NGU短信 > ICTは神の領域へ(1)の段
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☆関連サイト:http://web-version2.blogspot.com/

 とうとうコジマガも宗教色が出たのではとお嘆きの諸兄がおられるか
も知れません。そうではなく学問としての話です。昔より人間が理解で
きないことは数多く、これを知りたいという欲求から学問は成立してい
ます。宗教が生活の一部であった中世社会では、ルネッサンスまで人間
は教義ために思考停止の状態にさせられていました。

たとえば経済学でも利用される確率・統計という学問は、元来、貴族の
遊びから生まれた学問です。この学問的成果を利用して不確実な現実の
現象を捉えようとしたのが経済学です。ですから経済学部の重要な科目
として統計学が設置されています。

経済学は、数学や物理学・生物学などの知見を利用し、現実をもっとも
らしくモデル化して説明します。重要なのは「現実らしく」ということ
です。モデルにデータを当てはめ、もっともらしい結果を得たとしても
本当に現実社会がそうなっているかどうかは、誰も分かりません。利用
できるデータも少ないわけですし、その情報から全体像がみえるという
理屈には、無理があることを学者も気づいています。やはり、真理は神
のみぞ知るところでしょう。

最近は情報社会が進展し、溢れ返るほどのデータがあります。Web2.0の
トレンドは、爆発的に増大した情報をいかに扱うかです。厖大なデータ
を駆使できるようになって、従来、見過ごされていた部分に光をあてる
ことが可能になりました。これらを宝の山に変えることができ、ビジネスの
世界では「ロングテール」として注目されています。

ブログやSNSを代表するWeb2.0が流行っています。これはネット上の個人
活動がインターネット上で有効に作用した結果です。相互の活動が効率
的に把握できるシステムを組み込んだことにより、思いもよらなかった
効果が生まれました。iTunesやGmail、SkypeなどもWeb2.0の範疇である
と考えます。

時代の趨勢はネットだけにとどまらず、リアル世界にも訪れています。
RFID(非接触型)の電子マネーの普及、ICタグのトレーサビリティへの
応用、各社が扱うポイントカードの系列化やETCなどもそうです。個々の
データをみれば、何時どこで何を買ったかなど経済活動は丸分かりです。
ちなみに自分もポイントカードの履歴が保証書の代わりになって便利な
経験をした反面、ちょっと怖くなりました。

取引相手を信用せず疑念を抱き、ネガティブな見方をすれば「監視社会」
はすでに実現しています。経済学部で学んだように市場経済は「信用」
で成立しています。個別取引に付帯する情報の取扱いも信用しなければ、
完全な匿名性を守るには窮屈な生活をしなくてはなりません。しかし、
そこまで自分を隠さなければならないほど怪しげな経済活動をしている
とも思いません。

数年前にマスコミの標的になった住基ネットは政府の管理だからダメと
いう論調が一般的でした。Googleは世界政府を作ろうと考えているにも
かかわらず、民間企業の情報管理には、それほどの攻撃はありません。
両者の本質的な問題は何ら変わりません。

自ら大きなリスクと投資を引き受けて消費者の利便性を高めている民間
事業はOKで、大切な税金が無駄に使われる恐れがあるので政府はダメと
いうことならば、議論の余地はあります。行政でいえば、どれだけITで
業務の効率化ができるかという点に注意すべきです。地方財政が破綻し
かかっている今日、ITによる業務効率の向上は、国民の経済問題として
重要課題となります。

個人情報の管理が、セキュリティが、云々と言い続ける輩は、どの世界
にもいます。問題提起でなく、ネガティブキャンペーンをはるような人
はそもそも分からない、やりたくないということを前提に話をしている
ので、推進へのブレーキになります。残念ながら市場メカニズムが機能
しない部門に多くいるのは確かです。なぜなら、21世紀に変わらなくて
はならない時代に、生きていられると思っているからです。

ITツールを以って、目の前にある問題をいかに解決するか?このような
ITソリューションが社会全体に試されている時代です。


―――――――――――――――――――――――≪ books ≫――
■ 本の紹介
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☆関連サイト:http://www.ngu.ac.jp/~kkojima/seminar/booklist.html

『血と骨』、梁石日、幻冬社文庫、各\648 (上下)
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「冬のソナタ」から盛り上がった韓流ブームは、チャングムに引継がれ、
ドラマ・映画・食というように文化的理解が進んでいます。先が心配な
放送業界にあって、NHKは視聴率の上昇、DVD関連販売、ハングル語講座
の人気など嬉しい限りでしょう。

私自身、ハングル語は大学時代に少しかじりました。きっかけは1988年
のソウルオリンピック前に一度ソウルを見ておきたかったからで、韓国
へ行くには多少勉強も必要かなと思った程度です。またソウルに行きた
かったのは、幻の名古屋オリンピックへの哀愁だったかも知れません。
ちなみにドイツのバーデンバーデンへ行った際には、開催地決定の発表
会場にて感慨にふけっていました。当時のサマランチIOC会長の「SOUL」
という発表が今も忘れられません。

韓国ドラマは興味はありませんが、2年前に梁石日原作の『血と骨』を
読みました。後で知ったことですが、この作品は2005年に崔洋一監督に
より映画化され、日本アカデミー賞で何部門かをとりました。原作者と
監督のコンビで有名な作品は、『月はどっちに出ている』です。主演の
岸谷五朗、ルビーモレノが有名になった作品で、これは梁石日の『タク
シードライバー日記』を元にしています。『血と骨』の主人公である金
俊平を演じるのは、北野武です。

済州島出身の在日韓国人が主人公ですが、戦争前後の日本における人間
の生き様が見事に描かれています。読んでいるときは、何とも思いませ
んでしたが、読後、徐々に考えさせられるテーマです。山本周五郎章を
受賞した作品であることも大いに頷けました。在日だけの問題でなく、
人の生き様、老い・死、家族、欲望などテーマを広く扱っています。

純な「冬のソナタ」の対極にあるのが、『血と骨』ではないでしょうか。
日韓ワールドカップの成功、冬ソナ人気という日韓の相互理解を深める
ためにも、このような作品がどれだけ理解されるかを期待します。

この夏、韓国へ短期留学の引率の機会を得て、再びこの作品を思い出し
ました。小泉首相靖国参拝というニュースにも、ほとんどの人は冷静に
受け止めていました。マスコミが作り出す表面的な話題に対し、過剰に
反応しなくなっている両国民です。

ちなみに、引率したにも関わらず韓国語はまったく上達しません。


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■ゼミサイトの話題:
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☆関連サイト:http://www.kojima-seminar.net/

ゼミのサイトをこつこつとカスタマイズしてもらって、ただ感謝です。
変化や進化は必要で、この積み重ねが重要です。
SNSと発想は同じなのですが、このサイトも使い勝手などが慣れるまでに
時間がかかるといったことだけでしょうか。アクティブユーザの活動が
サイトの価値を高める時代になりました。mixiの企業価値をユーザ数で
考えれば一人当たり4万円です。上場したmixiには500万超の登録ユーザ
ですが、アクティブユーザは果たしてどれぐらいなのでしょう?


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■編□集□後□記□
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この夏、私が尊敬する先生との話で「ついていない人の周りには、そう
いう人ばかりが集まるんだよね。」その逆も然り。

言霊ともいうように「ついている」と口にするだけで、自然とよい結果
を引き込むことができるとのこと。これは使う人の心の持ちようを表し
ています。周りからポジティブに見られている分、前向きな話や良いこ
とも集まってくるのでしょうね。(怠けていては、絶対に結果はついて
来ませんが・・・誰それがこう言ったというように人のせいにするのは、
もちろん論外)

何気なく使う言葉は「いのち」を持つ分、大事にすべきですね。