2012年3月27日火曜日

第89号(2012.03.27)


□ Nagoya Gakuin University, Faculty of Economics
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■□□> コジマガ kojimag@    第89号
□───────────────────2012.03.27─
□ Kojima seminar Mail Magazine, Vol.089
*等幅フォント(MSゴチックなど)でご覧ください。


3月15日(木)の卒業式で1000名以上の学部生が卒業し、本学のOB・OGは
累計4万人を超えました。1964年に創立して以来、これだけ多くの人材を
輩出しているわけですから、いろいろな場面で見知らぬ卒業生と出会う
ことも増えてくるはずです。書類に職業欄を記入する時があると、大学
の卒業生が担当だったりすることもあります。(このような場合、大変
照れくさいのですが、仕方がありません。)これもひとつの縁だけに、
たまに大学時代を振り返ってもらえると幸いです。


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■NGU短信 > 秋学期入学喧々諤々の段
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☆関連サイト:http://blog.ngu.ac.jp/president/2012/03/06/

東京大学の提案によって、秋入学の議論が盛んです。それまで当たり前
と思っていたことを再考するには、興味深いネタではないかと思います。
関連サイトでは、木船学長がブログで私見を述べていますし、こうした
議論はとても歓迎します。

さて、アメリカの大学に卒業式はありますが入学式はありません。UCF
での研修中、同僚に「なぜ入学式はないのか?」と尋ねたところ一笑に
付されてしまいました。同僚の説明では、多様な学生がさまざまな入学
方式で入ってくるので、入学時期は必ずしも同じでないとのこと。また、
完全セメスターですし、一緒に入学しても卒業時期は同じでありません。
そもそも入学後は厳しい勉強が待っていますから、いくつかのステップ
を乗り越えなければならず、最終段階をクリアできたことが卒業であり、
褒め称えられるべき行事なのでしょう。

上のような事情から、アメリカでは入学式よりも卒業式の意味があると
思います。日本では難関の入学試験をくぐり抜けたお祝いと、これから
新しい生活をスタートするケジメとしての入学式なのでしょう。しかし、
かつて受験戦争や受験地獄といわれた時代は過ぎ去り、進学率は50%を
超えて比較的容易に大学に入れるようになりました。推薦で高校・大学
に入った学生は入学試験を経験することもありません。

時代は変わりました。バブル期の「受験戦争、就活楽勝」から現在では
「受験楽勝、就活地獄」へと変容しています。これに合わせて年中行事
も活動期間が移行しています。かつて、大学受験はセンター試験、私大、
国公立という年明けが中心でした。最近では秋頃の推薦試験を利用する
受験生が増えています。入学選抜方法は従来の指定校の他にAO・社会人・
留学生など枠はどんどん広がっています。さらに受験科目も複雑になり、
高校で進路指導を担当する先生はさぞや大変なことと推察します。

大学の入口だけでなく、出口でも変化は見られます。20年前では4年生
の連休頃から就職活動に入って、夏休み頃には多くの学生が内定を得て
いました。公務員試験の時期は現在とあまり変わりありません。バブル
崩壊・金融危機・リーマンショックを経てゆくうちに、新規採用が抑制
され、新卒入社は極めて狭き門になってきました。また依然として新卒
採用は、春一括が主流なので、これに乗り送れまいと学生は就活準備を
かなり早めています。今や3年生の秋頃スタートですので、昔より半年
以上前倒しになっています。

こうした大学を取り巻く環境の変化によって、国際化や基礎学力の低下
という問題も顕在化しています。また、18歳人口の減少も誰もが知って
いることですが、抜本的な改革をしようという主体が現れませんでした。
というのも、構造改革なのでひとつの組織だけで動かせる問題ではない
からです。しかし、今回は頂点である東大の提案だけに、実現可能性が
出てきました。

秋学期入学で問題が解決するわけでもありませんが、現行の制度と現実
がこれほどまでにフィットしなくなっているので、変えるチャンスだと
思います。東大はじめ世界と競争するトップ校の役割、地域に根ざした
地方大学の役割、私学の教育理念に基づいた人材育成、これらを真剣に
考える良い機会であると思います。21世紀はすでに10年以上も経過した
にもかかわらず、ほとんどの大学が同じような方向へと進んでいるよう
に感じます。

さて、国際化のひとつの問題に日本人の英語力があります。この問題で
畏友がネットでつぶやいていたことを思い出しました。トップ校の入試
科目の英語はTOEFLにしたらどうかというものです。すると英文解釈から
将来の留学に向けた実用英語へシフトします。高得点者はそのスコアで
アメリカの大学院へ進学できる道も拓けるので一石二鳥です。こうして
学生は仕事に役立つ英語の勉強となるでしょうし、センター試験で実施
しているリスニングも不要になります。経済・経営系の学部ならばTOEIC
でも良いかも知れません。このように実績ある検定をアウトソースする
のも一考に値するでしょう。


────────────────≪  books ≫─
■ 本の紹介
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☆関連サイト:http://www.shinchosha.co.jp/book/113303/

『雄気堂々』,城山三郎,新潮文庫,1976年
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前回に続いて城山三郎氏の作品を取り上げます。今回の主人公は近代の
日本経済の基礎を築き上げた経済人渋澤栄一です。経済学部生でその名
を知らない学生がいたら、モグリでしょう。よく知られている彼の業績
としては、第一国立銀行(現、みずほ銀行の前身)や東京株式取引所(
東京証券取引所の前身)の創設です。最近、新聞で読みましたが、中国
で渋澤栄一が高く評価されているようです。

この本は上下巻の2分冊になっていますが、上巻は幕末期だけで殆どの
紙面が割かれています。読書中は、なかなか話が進展しないと苛立ちを
覚えるほどでしたが、読後はなぜ紙幅を充てる必要があったのかが理解
できました。まさに大激動の日本にあって血気盛んな若者がどのような
考えから自分で行動を起こし、その後の境遇につながるのか、こうした
結果が渋沢青年の糧となっているかを書かねば、晩年の渋澤栄一を描く
ことはできないからです。

田舎の農民が自分の意志で行動し、周りに彼の才能を見い出してもらい
ます。血気盛んな若者の行動から危なっかしい場面でも、人の持つ運が
人生を左右します。勤王倒幕運動に加担するも、巡り巡って水戸一橋家
に仕える身となりました。一橋家で才覚を表すも、主君の慶喜が幕府の
将軍職につきます。その後、フランス留学の随行員という命を受けて、
深く西洋文明を知ることになります。その後の明治維新では、持ち前の
性格に西洋知識が重宝され、新政府からも期待されます。

名古屋中村の農民の秀吉が天下人になったことは、広く知られています。
渋澤栄一の生き様にも同じような立身出世物語があります。政治でなく
経済での功績が多い人だけに、経済学部卒業生には一押しの小説です。
また、苦労人故にその功績や思想がもっと広く知られるべきであるよう
に思います。特に、閉塞感がある現在の経済にあっては、振り返られる
べき人物の一人でしょう。


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■最近のゼミ・講義から
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☆関連サイト:http://www2.ngu.ac.jp/~kkojima/seminar/menbers.html

新学期が目前です。新たに3年ゼミ(18期生)へ21名を迎えますが、これ
までの経験があるので、あまり不安はありません。ただ、ひとつ気になる
ことは恒例の新歓コンパです。現在は4年生がいないので、どうしたもの
かと少し困っています。普段ならば連休前に実施するところですが、ゼミ
が始まらないと様子が掴めません。今年の開講曜日は木曜日なので、連休
明けの10日か17日の夜にでも開こうと思っています。OB・OG諸氏の積極的
なヘルプを求めています。


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■編□集□後□記□
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先日、調査で東大阪市と島根県隠岐郡海士町を訪問しました。毎年のこと
ですが、地方で頑張っている方々のお話を伺うと素晴らしさに感動します。
さらに彼らから本当にパワーをもらうことができます。他の人は諦めたり
現状を嘆いたりするところを、困難に立ち向かい未来を切り拓く姿勢には
頭が下がります。すると、自分の仕事がちっぽけであり、自分が相対する
困難などは吹けば飛ぶようなつまらぬものと思えてきます。

十分な元気をもらいましたので、来年度も頑張りましょう。


■コジマガ・バックナンバー
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