2011年4月28日木曜日

第74号(2011.04.28)

□ Nagoya Gakuin University, Faculty of Economics
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■□□> コジマガ kojimag@    第74号
□───────────────────――2011.04.28─――
□ Kojima seminar Mail Magazine, Vol.074
*等幅フォント(MSゴチックなど)でご覧ください。


フロリダはすっかり夏模様です。アメリカの大学は春学期のテスト期間を迎え、
学生たちは忙しそうです。

さて、スペースシャトルのエンデバーがラスト飛行となり、4月29日(金)の
午後(現地時間)にKSCから打ち上げが予定されています。オバマ大統領一家
も見学に来るということで、地元ニュースではシャトルの話題で盛り上がって
います。


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■アメリカ短信 > 想定外の規模と範囲の段
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☆関連サイト:http://bit.ly/kojimag054

今回の激甚災害には「想定外の規模」という形容詞が目立ちます。これにより
地震学者や防災学者の免罪符になるとは思いませんが、再び科学技術とは何か
ということを考えさせるような出来事です。超巨大地震とそれに起因する連鎖
が現代社会に与えた事実からいろいろと思いを巡らせました。

まず、ありえないことが起ったことで『ブラックスワン』を思い出しました。
これはコジマガ第54号で取り上げた本ですが、我々は将来に起こりうる確率を
正規分布という「月並みの世界」で捉えていたのかも知れません。経済分野の
リーマンショックを含めて、この世の中には予測を越えた事態は起こりうると
いう事実を忘れがちです。これに関しては、4月7日付の日経新聞の経済教室に
今回の大地震とべき乗分布について触れられています。

たしか関連本に「名もなき英雄」の話題がありました。これは、惨事を未然に
防いだヒーローを取り上げています。事前の正しい措置によって、惨事が起こ
らないので、その功績は誰も知らないままという話です。今回とは事態が違い
ますが、小学校の校舎の2階から直接、避難できる橋を作った市議の話が新聞
に掲載されていました。大津波が襲いましたが、幸い子供達が無事だったので
その功績が確認できました。

次に、ありえないことによる最大の被害が原発事故です。これまでの安全性を
高める努力が無残なまでに消失しました。原発は99.9%安全で、小数点以下を
さらに小さくする努力を電力会社は続けているという話をかつて聞いたことが
あります。たしかに地震後に運転は自動停止できましたが、発熱が収まるまで
の時間が長いという点が問題です。制止に必要な冷却装置が津波によって破壊
されたことで、最悪の事態が生じています。

そして、被害の連鎖です。生産地が被災したことで、サプライチェーンが機能
不全に陥りました。このシステムの弱点を指摘する論が新聞でも散見されまし
たが、ネットワーク化された現代社会において代替となる手段を見つけるのは
容易でありません。グルーバルな競争下で、世界生産システムから外れること
は国全体の経済力を弱めてしまうことになります。

加えて、風評被害です。日本では福島産の農産物が代表的な例のようですが、
世界市場で見れば、日本全体が対象になっています。周知のように、食物以外
にも工業製品の出荷まで支障が来たしています。日本への観光や留学を控える
動きも見られます。アメリカでの報道を見ていても、正確な情報や知識を持た
なければ、心配や不安になるのも理解できます。日本から積極的に情報を発信
し、一刻も早いジャパンブランドの回復が望まれます。

このように巨大地震のインパクトは、我々の想像を越えた範囲に及んでいます。
科学はさまざまな叡智を結集して、自然や未来へ挑戦してきました。ある意味
で、我々人間に「慢心」があったのかも知れません。統計学で扱う正規分布は
不確実が伴う事象を前にして、多くの有益なヒントを与えてくれました。今回
『ブラックスワン』の登場で、これまで何となく信じていた平穏無事な日常の
連続が終焉を迎えました。あらためて、将来は正確に予見できないということ
を思い出させてくれました。


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■UCFから
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☆関連サイト:

学期末が近づいて、授業時間内で学生のプレゼンが始まりました。これは成績
の最終評価に大きく影響するだけに学生も真剣です。1回の授業につき発表者
は5人で、4日間行われます。

2週間ほど前に発表順序を決めました。まず、全員にくじを引かせて選択順序
を決定します。次に、一番くじを引いた学生からスケジュールの一覧表に希望
する順番を埋めてゆきます。彼らの選好順序を見ていると、まず2日目および
3日目が埋まります。そして、最終日が詰まってしまうと残りは1日目だけに
なります。このような学生の行動は、日本と同じで大変興味深い光景でした。
(まるで経済学の例題を見ているようです)

さて、実際の発表で一番印象深いのは、アメリカの大学生は1年生であっても、
かなり自信を持ってプレゼンをしていることです。皆がチーティング・シート
を手に持っていますが、これを読み上げるようなことはしません。この自信の
裏付けは、それまで授業の課題にされてきた事前調査をしっかりこなしている
ところにあるように思います。全員がPowerpointに加えて、PDFやYouTubeなど
を駆使しており、自分の意見である結論も明確にできるプレゼンレベルの高さ
に感動しました。

学生が周到に事前の発表準備をしているということは、さまざまな面から推察
できます。まず、チーティングシートについてです。日本では、ルーズリーフ
に手書きの台本というスタイルをよく目にします。こちらではスライドに対応
したカード型を使っています。ここに台本が印刷または貼り付けられており、
上手い利用方法に納得です。

そして、発表者はきちんとした格好をしています。普段は男女ともにTシャツ
に短パン、サンダルというかなりラフな格好ですが、発表の時には男子学生は
襟付きのシャツにスラックス、女子はワンピースを着ています。ですから教室
を見渡すと、当日の発表者は誰かが一目瞭然です。

さらに、授業の始まる前には、事前に教室のプロジェクタに投影し、自分たち
でチェックを行っています。プレゼンの冒頭には、きちんと自己紹介を兼ねた
挨拶もできています。ピアレビューの評価表を見ると、テクニカルな部分より
内容重視になっていますが、ほとんどの学生がプレゼンの技術的側面もきちん
とできています。

学生の発表テーマはさまざまです。内容には、一年前にメキシコ湾で起こった
BPの石油流出事故、若者のfacebook、ネットでの不正アクセス、遺伝子工学の
視点での食糧問題、子どもがTVをみる影響、学生の仕事が与える影響、教育へ
対する州の財政支出・・・など、さまざまです。特に、自分の専門に関わった
テーマというわけではありません。

発表に至る過程には、学期の始まりに各自がテーマを決めて、それぞれ調査を
進めます。最初にネットでのツールとしてCQやEBSCOを使って、関連の文献と
議論の集約結果を授業に持ち寄ります。図書館のオンラインサービスの使い方
では、研究の基本スタイルを実践的に覚えることができます。次に、それらを
まとめる作業(参考文献リストや引用方法)を行ないます。文献の要旨を書く
課題では、大学のライティングセンターを活用させたり、学生同士のダメ出し
というピアレビューを実施していました。さらにスプリング・ブレイクを利用
してインタビューを実施しなくてはなりません。このようなプロセスを経て、
研究テーマを煮詰めてゆきます。

約10週間にわたる週2回の対面授業と1回のオンラインによって、内容の豊富さ
でかなりのレベルに到達することが分かります。さながら日本では、ゼミでの
研究という印象を受けました。このような調査作業は常にファイリングをして、
数回にわたり教員が確認をします。今回のプレゼンは、これまでの作業を下地
にして最終的に自分の意見をまとめた発表です。

プレゼンに関する自己・相互評価表を自分で印刷しておき、発表直前にそれを
教員に渡します。すると点数やコメントが加えられて、授業時間の最後に返却
されます。即時にレスポンスをもらえるのは、学生にとって有益なことと思い
ます。

以上のように学生も教員も大変ですが、とても参考になった授業形態でした。


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■編□集□後□記□
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☆関連サイト:http://www.ngu.jp/system/article/detail/1580

NGUでは新学長の元、新たな年度を迎えているようです。ネットからの情報で
知るだけですが、これまでも大学人にはない発想と実行力を備えている学長
だけに、新しい変化の予感がします。どこの大学でも、何かと理屈ばかりを
述べて、前向きの行動や変化を拒んできた大学人が多く見られました。それ
によって大学は時代や社会から取り残されてきたのかも知れません。しかし、
これからは大学であっても社会の変化の速さにキャッチアップする適応能力
が求められます。

そのために、まずはトライをしてから課題を洗い出し、改善計画を示した上
で再実行が必要でしょう。従来のPDCAサイクルからDCAPサイクルという変化
が重要なのかも知れません。

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