2011年4月28日木曜日

第74号(2011.04.28)

□ Nagoya Gakuin University, Faculty of Economics
□―――――――――――――――――――――――――――――
■□□> コジマガ kojimag@    第74号
□───────────────────――2011.04.28─――
□ Kojima seminar Mail Magazine, Vol.074
*等幅フォント(MSゴチックなど)でご覧ください。


フロリダはすっかり夏模様です。アメリカの大学は春学期のテスト期間を迎え、
学生たちは忙しそうです。

さて、スペースシャトルのエンデバーがラスト飛行となり、4月29日(金)の
午後(現地時間)にKSCから打ち上げが予定されています。オバマ大統領一家
も見学に来るということで、地元ニュースではシャトルの話題で盛り上がって
います。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■アメリカ短信 > 想定外の規模と範囲の段
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:http://bit.ly/kojimag054

今回の激甚災害には「想定外の規模」という形容詞が目立ちます。これにより
地震学者や防災学者の免罪符になるとは思いませんが、再び科学技術とは何か
ということを考えさせるような出来事です。超巨大地震とそれに起因する連鎖
が現代社会に与えた事実からいろいろと思いを巡らせました。

まず、ありえないことが起ったことで『ブラックスワン』を思い出しました。
これはコジマガ第54号で取り上げた本ですが、我々は将来に起こりうる確率を
正規分布という「月並みの世界」で捉えていたのかも知れません。経済分野の
リーマンショックを含めて、この世の中には予測を越えた事態は起こりうると
いう事実を忘れがちです。これに関しては、4月7日付の日経新聞の経済教室に
今回の大地震とべき乗分布について触れられています。

たしか関連本に「名もなき英雄」の話題がありました。これは、惨事を未然に
防いだヒーローを取り上げています。事前の正しい措置によって、惨事が起こ
らないので、その功績は誰も知らないままという話です。今回とは事態が違い
ますが、小学校の校舎の2階から直接、避難できる橋を作った市議の話が新聞
に掲載されていました。大津波が襲いましたが、幸い子供達が無事だったので
その功績が確認できました。

次に、ありえないことによる最大の被害が原発事故です。これまでの安全性を
高める努力が無残なまでに消失しました。原発は99.9%安全で、小数点以下を
さらに小さくする努力を電力会社は続けているという話をかつて聞いたことが
あります。たしかに地震後に運転は自動停止できましたが、発熱が収まるまで
の時間が長いという点が問題です。制止に必要な冷却装置が津波によって破壊
されたことで、最悪の事態が生じています。

そして、被害の連鎖です。生産地が被災したことで、サプライチェーンが機能
不全に陥りました。このシステムの弱点を指摘する論が新聞でも散見されまし
たが、ネットワーク化された現代社会において代替となる手段を見つけるのは
容易でありません。グルーバルな競争下で、世界生産システムから外れること
は国全体の経済力を弱めてしまうことになります。

加えて、風評被害です。日本では福島産の農産物が代表的な例のようですが、
世界市場で見れば、日本全体が対象になっています。周知のように、食物以外
にも工業製品の出荷まで支障が来たしています。日本への観光や留学を控える
動きも見られます。アメリカでの報道を見ていても、正確な情報や知識を持た
なければ、心配や不安になるのも理解できます。日本から積極的に情報を発信
し、一刻も早いジャパンブランドの回復が望まれます。

このように巨大地震のインパクトは、我々の想像を越えた範囲に及んでいます。
科学はさまざまな叡智を結集して、自然や未来へ挑戦してきました。ある意味
で、我々人間に「慢心」があったのかも知れません。統計学で扱う正規分布は
不確実が伴う事象を前にして、多くの有益なヒントを与えてくれました。今回
『ブラックスワン』の登場で、これまで何となく信じていた平穏無事な日常の
連続が終焉を迎えました。あらためて、将来は正確に予見できないということ
を思い出させてくれました。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■UCFから
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:

学期末が近づいて、授業時間内で学生のプレゼンが始まりました。これは成績
の最終評価に大きく影響するだけに学生も真剣です。1回の授業につき発表者
は5人で、4日間行われます。

2週間ほど前に発表順序を決めました。まず、全員にくじを引かせて選択順序
を決定します。次に、一番くじを引いた学生からスケジュールの一覧表に希望
する順番を埋めてゆきます。彼らの選好順序を見ていると、まず2日目および
3日目が埋まります。そして、最終日が詰まってしまうと残りは1日目だけに
なります。このような学生の行動は、日本と同じで大変興味深い光景でした。
(まるで経済学の例題を見ているようです)

さて、実際の発表で一番印象深いのは、アメリカの大学生は1年生であっても、
かなり自信を持ってプレゼンをしていることです。皆がチーティング・シート
を手に持っていますが、これを読み上げるようなことはしません。この自信の
裏付けは、それまで授業の課題にされてきた事前調査をしっかりこなしている
ところにあるように思います。全員がPowerpointに加えて、PDFやYouTubeなど
を駆使しており、自分の意見である結論も明確にできるプレゼンレベルの高さ
に感動しました。

学生が周到に事前の発表準備をしているということは、さまざまな面から推察
できます。まず、チーティングシートについてです。日本では、ルーズリーフ
に手書きの台本というスタイルをよく目にします。こちらではスライドに対応
したカード型を使っています。ここに台本が印刷または貼り付けられており、
上手い利用方法に納得です。

そして、発表者はきちんとした格好をしています。普段は男女ともにTシャツ
に短パン、サンダルというかなりラフな格好ですが、発表の時には男子学生は
襟付きのシャツにスラックス、女子はワンピースを着ています。ですから教室
を見渡すと、当日の発表者は誰かが一目瞭然です。

さらに、授業の始まる前には、事前に教室のプロジェクタに投影し、自分たち
でチェックを行っています。プレゼンの冒頭には、きちんと自己紹介を兼ねた
挨拶もできています。ピアレビューの評価表を見ると、テクニカルな部分より
内容重視になっていますが、ほとんどの学生がプレゼンの技術的側面もきちん
とできています。

学生の発表テーマはさまざまです。内容には、一年前にメキシコ湾で起こった
BPの石油流出事故、若者のfacebook、ネットでの不正アクセス、遺伝子工学の
視点での食糧問題、子どもがTVをみる影響、学生の仕事が与える影響、教育へ
対する州の財政支出・・・など、さまざまです。特に、自分の専門に関わった
テーマというわけではありません。

発表に至る過程には、学期の始まりに各自がテーマを決めて、それぞれ調査を
進めます。最初にネットでのツールとしてCQやEBSCOを使って、関連の文献と
議論の集約結果を授業に持ち寄ります。図書館のオンラインサービスの使い方
では、研究の基本スタイルを実践的に覚えることができます。次に、それらを
まとめる作業(参考文献リストや引用方法)を行ないます。文献の要旨を書く
課題では、大学のライティングセンターを活用させたり、学生同士のダメ出し
というピアレビューを実施していました。さらにスプリング・ブレイクを利用
してインタビューを実施しなくてはなりません。このようなプロセスを経て、
研究テーマを煮詰めてゆきます。

約10週間にわたる週2回の対面授業と1回のオンラインによって、内容の豊富さ
でかなりのレベルに到達することが分かります。さながら日本では、ゼミでの
研究という印象を受けました。このような調査作業は常にファイリングをして、
数回にわたり教員が確認をします。今回のプレゼンは、これまでの作業を下地
にして最終的に自分の意見をまとめた発表です。

プレゼンに関する自己・相互評価表を自分で印刷しておき、発表直前にそれを
教員に渡します。すると点数やコメントが加えられて、授業時間の最後に返却
されます。即時にレスポンスをもらえるのは、学生にとって有益なことと思い
ます。

以上のように学生も教員も大変ですが、とても参考になった授業形態でした。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■編□集□後□記□
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:http://www.ngu.jp/system/article/detail/1580

NGUでは新学長の元、新たな年度を迎えているようです。ネットからの情報で
知るだけですが、これまでも大学人にはない発想と実行力を備えている学長
だけに、新しい変化の予感がします。どこの大学でも、何かと理屈ばかりを
述べて、前向きの行動や変化を拒んできた大学人が多く見られました。それ
によって大学は時代や社会から取り残されてきたのかも知れません。しかし、
これからは大学であっても社会の変化の速さにキャッチアップする適応能力
が求められます。

そのために、まずはトライをしてから課題を洗い出し、改善計画を示した上
で再実行が必要でしょう。従来のPDCAサイクルからDCAPサイクルという変化
が重要なのかも知れません。

2011年3月30日水曜日

第73号(2011.03.30)

□ Nagoya Gakuin University, Faculty of Economics
□―――――――――――――――――――――――――――――
■□□> コジマガ kojimag@    第73号
□───────────────────――2011.03.30─――
□ Kojima seminar Mail Magazine, Vol.073
*等幅フォント(MSゴチックなど)でご覧ください。


1995年1月17日の阪神大震災はゼミがスタートする直前に起こりました。今回の
東北関東大震災は、ゼミが休止中の出来事となりました。日本の歴史に刻まれる
大災害ですが、これまで日本人が幾多の苦難や試練を乗り越えたように、必ずや
復活できるものと強く信じています。復興の道は簡単ではありませんが、これを
達成することは、地球規模の問題でさえ力を合わせれば解決できるという自信を
世界の人々に示すことにもつながると思います。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■アメリカ短信 > 情報流通と収集の段
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:http://kizuna311.com/

いつもTVでは、News13でオーランドの地元の話題を、CNBCでアメリカの経済に
関する情報を入手しています。さらにNHK国際放送の30分ニュースで、日本が
世界に発信する話題と日本関連の最新ニュースを観ることにしています。英語
での国際ニュースだけに分かりづらい点ありますが、日本語のサイトを使って
知識と情報を補うことで、背景が理解できるようになります。

また、渡米に合わせて日経新聞電子版を購読しています。日本との時差がある
ので、アメリカでは午後に朝刊を読むことができます。ちょうど研究所にいる
時ですので、毎日、オフィスで紙面に目を通します。日本では、なかなか読む
時間がなかった日経新聞ですが、ここでじっくり読めるようになりました。

さらに、リアルタイムの情報は、Yahoo!Japanで全体の動向を把握した後に、
個別の情報へアクセスします。また、CNETJapanではIT業界の最新動向を知る
ことができます。地元ニュースは中日新聞のサイトで「名古屋の乱」などを
チェックします。Twitterから名古屋周辺の天気なども知ることができます。

日本にいると知らず知らずテレビの解説やコメンテーターの意見が耳に入って
きます。また、電車の吊り下げ広告などにある扇動的な見出しが目に飛び込ん
できます。このように日本では情報が溢れているので、自分の力で情報を取捨
選択する必要があります。表面的な内容なのか、問題の核心に迫っているのか
を判断しなくてはなりません。

311から、情報収集の手段と内容が一変しました。東北関東大震災は、発生の
直後から米国でも連日トップニュース扱いでした。地震・津波・放射能の関連
情報は大きく取り上げられていました。そして、地元のケーブルテレビ会社は
TVJapanを無料視聴できるようにして、このチャンネルではNHK総合が24時間、
流されています。

併せて、ネットで震災情報をチェックするとNHK・TBS・フジテレビがサイマル
配信をU-STREAMとニコニコ動画で行っていました。日本のテレビ局がネット上
にリアルタイムで映像を流すのは異例中の異例です。これまで技術的には可能
であったにもかかわらず、権利関係によって全く進展がなく、実現は不可能と
思われていたサービスです。こんな時に体験することができました。

NHKだけでも情報ソースやバリエーションがかなりあって、さまざま切り口で
情報を届けられる体制に、あたらめてその組織の大きさに驚きました。日本は
民放や新聞・週刊誌によって多くの情報が溢れかえっているように推察します。
今回は、情報源がNHKとネットだけなので、情報が錯綜しない分だけ、自分の
頭を整理しやすい環境であるかと思います。NHKが大本営発表かも?と疑念を
抱くこともないわけではありません。

さて、今回の大災害におけるネット活用の効果は改めて検証されると思います。
緊急時の電話回線の絞り込みによって、一般電話は繋がりにくい状況が続いた
ようですが、Skypeは十分機能したようです。また、Googleが行った安否確認
システムであるパーソンファインダー、Youtubeでのメッセージビデオはじめ
ネットの特性をうまく活かしたサービスが展開されました。

さらに、Twitterやfacebookでの情報伝達を観察していると、混沌とした状況
でも秩序正しい方向へ進んで行ったように見受けられました。例えば、正確な
情報が掴めない状況下では、チェーンメールの類が横行しますが、SNSの情報
交換では、冷静に判断できるユーザ達が誤った情報の増幅を抑えていた場面も
散見されました。ハッシュタグや拡散希望の使い方も徐々にまとまっていった
ように感じます。

現在、被災者の方々への応援メッセージがネットで始まっています。とりわけ
Kizuna311のような取り組みによって、さらに多くの支援の輪が広がることを
期待しています。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■UCFから
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:

東日本を直撃した未曾有の大震災の情報は、アメリカでは朝早くからトップ
ニュースで扱われていました。アパートメントでネットから情報を入手して
いると、UCFのスタッフから電話をもらい、家族の安否を気遣っていただき
ました。UCFには地震を東京で体験し、映像に収めたスタッフもいたそうで、
その揺れの凄まじさをfacebookにアップしたとのことです。

予期できない災害などによって、授業が進められないケースが出てきました。
このような場合、定められている授業時間数の確保が難しくなります。補講
期間を使っても対応できない場合には、授業期間そのものが後ろにずれ込む
ことさえあります。昨今では、長期休暇を利用して留学やインターンシップ
などの行事があるために、かつてほど柔軟に対応できません。

一昨年もH1N1の影響で、行政の指導に基づき大学が休校措置を取ったことが
あります。このような事態にただ鎮静化を待つだけでなく、学習できる環境
にある学生だけでもその時間を無駄にしないような取り組みが必要であると
思います。すでにネット上に多くの教材があるので、これらを非常事態での
自習用コンテンツと組織として取り組むべきと提案したことがあります。
(ほとんど無視された状態でしたが・・・)

東京のW大学は卒業式・入学式の中止に加えて、授業の開始を5月の連休明け
とするそうです。不足する授業時間はオンラインの利用を視野に入れている
ようです。実際に、UCFでは大学での着席時間(シーティング・タイム)を
減らすブレンデッド・ラーニングが、かなり進んでいます。

UCFのようなインストラクショナル・デザインの専門家や支援組織が十分で
なくても、日本でできることもあります。例えば、初回の授業に行われる
ガイダンスはビデオ収録・配信し、受講生はこれを視聴、質問はBBSを利用
することで、完全代替が可能です。また、事前にシラバスはネットで閲覧
できている大学も多いわけですから、どの大学でもある程度の実施は可能
であると思います。ただし、シラバスやプロトコルなどの書き方には改善
が求められますが・・・。いずれにせよ、新しいツールや試みを続けて、
その費用対効果をきちんと見極めることが必要でしょう。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■編□集□後□記□
―――――――――――――――――――――――――――――――

2010年度の最後は、日本に大きな試練を与えました。新年度は、これらの
課題を皆で克服し、新しく再建が求められます。激甚災害を被った地域や
人々の支援・復興策に加えて、今夏のエネルギー不足をどう乗り切るかと
いう難題が日本国民に待ち構えています。

限られた時間の中で、必要な時と場所にヒト・モノ・カネを効率的に回す
ことが求められます。経済学を学ぶ者は、これらの動きを注視する必要が
あります。今こそマーシャルが言う経済学の視点(Cool head,warm heart)
をもって、熟慮と行動をする好機かもしれません。

2011年3月15日火曜日

第72号(2011.03.15)

□ Nagoya Gakuin University, Faculty of Economics
□―――――――――――――――――――――――――――――
■□□> コジマガ kojimag@    第72号
□───────────────────――2011.03.15─――
□ Kojima seminar Mail Magazine, Vol.072
*等幅フォント(MSゴチックなど)でご覧ください。


日本では卒業式の頃だと思います。毎年、手塩にかけた学生を送り出す行事は
大学にとって向かい入れるのと同じく重要な節目です。NGUでは3月16日に学位
授与式が行われるようです。

今年の卒業生には、残念ながら直接、声はかけられないものの、いつも話して
いるような内容を掲載して、餞の言葉にさせてもらいます。

「これからは学生でなく、同じ社会人。どれだけ頑張っているかをお互い勝負
しよう。君たちの頑張っている話はどこからともなく聞こえてくるので、それ
は喜びであり、大きな刺激です。出藍の誉れというほど高いレベルでないので、
追い抜いて行ってもらいたい。でも再び抜き返すから。」

コジマガのバックナンバーを見ると2月から3月にかけての記事には、必ず卒業
に関する話題が出てきます。一度、ご笑覧ください。


―――――――――――――――――――――――≪ books ≫――
■ 本の紹介
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:http://bit.ly/eI9Cfz

『競争の作法 いかに働き、投資するか』,斎藤誠,ちくま新書,2010年
^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^^
コジマガ第57号(http://bit.ly/kojimag057)以来、久しぶりに本の紹介です。
昨年話題になった本をアメリカで読了しました。現在、取り組んでいる日本の
仕事の関連本として、大いに参考になりました。経済学部の3年生以上ならば、
この本を理解するのに必要な周辺知識は、身につけていてもらいたいものです。
(一般向けの本ですが、正直なところどうなのでしょう?「難しい」か「適当」
かは気になるところです。)

文面にハッキリと書かれていませんが「構造改革が評価されて外国資本を呼び
こみ、日本の株価を上げた」という考え方を真っ向から否定しています。それ
には「2つの円安」を使って、当時の長期にわたる景気回復を経済学的に説明
しています。一方で、格差社会が進んだ原因をすべて市場のせいだとする風潮
にも、一石を投じています。ここでは、一部の人達を犠牲にして、多くの人達
(既得権)を守ったことを示しながら、たった年1%の賃金切り下げを全員が
容認すれば、何とかしのげたはずとコメントしています。

少し深読みしすぎかもしれませんが、労働市場も硬直的でなく、適度に競争的
状況であったならば、このような事態に陥らなかったというようにも読むこと
ができます。いずれの指摘にも基本的なマクロ経済データを用いた解説であり、
マスコミに扇動された経済論壇をすっきりさせてくれる内容でした。

また本書で、競争が進展する時代を生きるための個人の姿勢が示されています。
もはや競争から逃れることはできなくなっているので、一人ひとりがどう競争
と向かい合ってゆくべきかというものです。この書で指摘されている、地主や
株主の態度、生産性を2割上昇させる考え方は個人的に首肯できます。自分が
持っている生産要素(能力や資産など)は十分に活用できているか、それらに
無駄が生じてはいないだろうか?筆者の問いかけに、ふと自分を見つめる機会
になりました。

この本を読みながらひとつ疑問点が浮かびました。それは逼迫した財政状況に
あって、一国民としてどのような態度であるべきかということです。もちろん
本書のテーマからは離れているので、この点には言及されていません。大きな
テーマだけに別の紙面が必要でしょう。なぜ、この点が気になったのかは日本
の経済成長を持続・発展させていかなければ、この国の莫大の借金はとうてい
返済不可能だからです。

プライマリーバランスを目指すにも、財源は不十分であり、社会保障費は上昇
するばかりです。さらにデフレやマイナス成長では、借金を返済できる目処も
立ちません。財政赤字を改善するには、持続的な経済成長による税収アップと
インフレ的な状況が望まれます。この本では、税に関して地方税の固定資産税
には言及されていましたが・・・。

最後に、タイトルにもある「作法」というのは個人の矜持なのかもしれません。
もっと経済をしっかり見つめる能力を養い、日頃から自分の頭で考える習慣が
重要なのでしょう。競争社会にあっては自分の考えと行動が自然に一致できる
(評論家のように言いっぱなしにしない・責任転嫁をしない)ような最低限の
作法が求められるのでしょう。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■UCFから
―――――――――――――――――――――――――――――――

UCFの学生とはあまり喋る機会がなかったので、同じ授業を受講している学生
をランチに誘ってみました。いつも隣に座っている2人とともに3限目クラス
終了後にStudent Unionでランチです。

こちらの誘いであり、かつ子供みたいな年齢ですから、当然のごとくご馳走
をしました。しかし、いたく恐縮している姿勢が新鮮です。聞けば、彼らは
ともに19歳で1年生だそうです。

彼らはこの半期に4科目しか履修していません。日本の学生は半期10科目以上
を履修していることに驚かれました。こちらの学生は宿題や課題が多いので、
それほど多くの授業をとりません。1科目が3単位ということもありますし、
また、夏には別の学期もあるので、それでOKなのでしょう。

ブレンド型の授業(週3回の内、1回はオンラインで代替)は、教室まで来る
必要がないので、便利だそうです。とはいえネットでの課題も結構あるので
楽ができるわけではありません。(それだけ、勉強するのが当たり前なので
しょう。)週末は宿題をしたり、友だちと遊んだりしているそうで、あまり
日本の学生と変わりません。

また、facebookは2・3年前のハイスクールの頃から始めていることのことで、
友達リクエストをすることになりました。皆、当たり前に情報交換している
話に、言葉で聞いていたネットジェネレーションを見た思いです。

このように授業や学生生活について、実際に学生の生の声を聞く機会を得て
とてもラッキーです。しかし、ガチンコの英会話ランチは、大変勉強になり
ますが、冷や汗をかく量も半端ではありません。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■編□集□後□記□
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:http://bit.ly/

UCFのIDLではURLの短縮サービスとしてTinyURLを使っています。当初、なぜ
このサービスを使うのかは理解できませんでしたが、ブログの各記事に付く
長いURLには効果的であることが分かりました。(お恥ずかしい話、それだけ
ブログを上手に使っていなかったという証左です)また、Twitterなどの文字
制限がある場合や直接URLを入力させる場合には有効に機能します。さらに
これらのサービスを使えば、アクセス数の分析ができます。

現在では、TwitterはTinyURLに代わってbit.lyを使っています。そこで今回
からコジマガでも試してみることにしました。上手くできていない場合には
笑い飛ばしてください。さて、成果はいかに?

2011年3月3日木曜日

第71号(2011.03.03)

□ Nagoya Gakuin University, Faculty of Economics
□―――――――――――――――――――――――――――――
■□□> コジマガ kojimag@    第71号
□───────────────────――2011.03.03─――
□ Kojima seminar Mail Magazine, Vol.071
*等幅フォント(MSゴチックなど)でご覧ください。

米国ではメジャーリーグの春のキャンプが始まっています。MLBのほとんどの
球団がフロリダとアリゾナで実施し、フロリダには東部を中心として15球団が
来ています。

人気球団のヤンキースはタンパ、レッドソックスはフォートマイヤーズという
フロリダ半島の西側でキャンプを行っています。オーランドではアトランタ・
ブレーブスがキャンプをしていますので、ディズニーワールドまで見学に行き
ました。スタジアムの周りに練習グランドがいくつもあり、ここで多くの選手
が練習をしています。残念ながら川上憲伸は昨年度の不調がたたって、合流に
時間がかかっているようです。機会があれば、レッドソックスとのオープン戦
を観戦したいものです。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■アメリカ短信 > スペースシャトルの段
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:http://www.kennedyspacecenter.com/

ケネディ宇宙センターは、アパートメントから車で約40分ほど西に走ると到着
します。アメリカ南部に位置する理由は、理科で学習したように地球の自転を
利用して打ち上げを行うからです。また、大西洋に面しているのはブースター
の着水に便利だからです(多分・・・)。

KSCにはビジターコンプレックスをはじめ、さまざま見学施設が揃っています。
組立工場やロケットを運搬するクローラーなど実際の作業現場を遠くから見る
ことができます。また、巨大なアポロロケットや宇宙服の数々。「月の石」は
間近でいくつも見ることができます。これは1970年の大阪万博でアメリカ館の
目玉展示だっただけに懐かしさを覚えます。

また、学習施設では、月面を歩いた人類は12人しかいないことや理科で習った
内容を思い出させてくれます。改めて小さい頃に読んだ科学の本を見てみたい
と思わせます。ここへ来るとディズニーランドのトゥモローランドに似ている
ことに気づきます。東京ディズニーランドにはどうしてアポロロケットがある
のか不思議でしたが、アメリカ国民にとってニューフロンティアの象徴であり、
明日への希望としての宇宙開発であったことで納得できます。

宇宙開発は旧ソ連との開発競争で国家威信をかけた計画であり、成功への思い
は相当なものだったことが推察できます。展示物や説明を見ていると、詳細は
わからなくともその熱い思いは伝わってきます。壮大な計画と投入した莫大な
予算は、基礎的科学研究のひとつになり、アメリカに多くの利益をもたらした
ことでしょう。宇宙開発研究から派生した技術や商品もたくさんあります。

その意味で1986年1月に起きたスペースシャトルのチャレンジャー爆発事故は
アメリカ国民にとって大きなショックだったと思います。また、この事故に
よって、その後のシャトル計画も大きな影響を受けました。

日本でのロケットの打ち上げは種子島宇宙センターなので、これを見る機会は
皆無に等しいと思います。オーランドではこれが間近で見られるのでラッキー
です。昨年の12月には、商業用小型ロケットが打ち上がるのをアパートメント
からでも目視できました。

当初、Final Missionとなるディスカバリーの打ち上げは11月3日の予定でした。
燃料タンクから液漏れが露見し、4度に渡って日程変更が続きました。12月の
打ち上げ予定も遅延し、さらなる延期でようやく今回にこぎつけました。安全
第一ですので、このような措置は当然ですが、装備の使い回しにより点検でも
見えないような不具合の箇所があるのでしょう。

さて、2月24日(木)の午後4時55分が打ち上げ予定時刻です。ビーチラインの
高速528は、普段に比べてかなりの交通量です。KSC周辺まで通常ならば30分で
到着できるのが、1時間弱かかりました。見晴らしが良い場所では道のサイド
に車を停めて、かなりの人が見学の準備をしています。私たちは、発射場から
十数マイル南方に位置するバナナ・リバーにかかる橋のたもとから見学です。
そこでも多くの人が「その時」を待っています。

予定時刻になると北の方角から煙が見えます。その中心に爆発時の大きな炎が
上がります。シャトルが上昇するのが見えてきました。まるで機体は炎と煙に
押し上げられているようです。シャトルは上昇しながら、徐々に西の方へ進路
を取ります。機体は雲に隠れてしまいましたが、その時、ようやく発射の爆音
が届きます。Padから10マイル以上も離れているので、轟音ではありませんが、
唸るような音はこれまで聞いたことがありません。雲間から再び現れた機体は
さらに小さくなっています。やがてブースターが外されるとシャトルの姿を目
では確認できなくなりました。

ほんの数分の光景でしたが、何とも感動的です。これまでKSCで何度も映像を
見ていますが、実際の打ち上げは何とも言えません。あいにく緩やかな南風が
吹いていたので、音が伝わりにくいこともありましたが、待ちくたびれるほど
の時間でもなく、本当にラッキーな見学になりました。打ち上げ後には一斉に
車が移動しますので、暫し時間つぶしをしました。しかし、夜11時になっても
道が混んでいたのには驚きです。

今年でシャトル計画は中止です。4月と6月に予定される2回の打ち上げを残す
のみになりました。KSCではレイオフが話題となり、地元のニュースでも取り
上げられています。一大産業ですから多くの人達がKSCに雇用されています。
フロリダも大きな転換点を迎えることになります。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■UCFから
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:

半年先ですが、すでに帰国後の仕事の予定が入り始めました。残りはあと半分
しかしないないと考えるのか、それともまだ半分もあると考えるのか?惰性で
過ごすならば後者の考え方ですが、好奇心を高めるならば前者です。やはり、
あれもしておけばよかったと後悔することだけは、No Thank Youです。

この半年で間、日常生活を送るだけの基盤はできました。お店での用事はある
程度ならばできます。というのも、向こうは仕事なので相手が一生懸命聞いて
くれるのと、こちらも決まった表現でOKというのが大きな理由です。しかし、
相手の言うことがほとんど理解できるようになれば、どれだけ楽なことか・・・

これまでやってきた分だけ自分が伸びると考えれば、先が楽しみです。80年代
の曲ですが、アメリカではJourneyのDon't stop believin'がよく流れます。
この曲のごとく、とりあえず自分の可能性を信じてやってみましょう。結果は
後からついくるものです。

この研修を振り返れば、2008年5月19日に大学に申請しています。その時には、
現在の状況を全く予想できませんでした。勇気を持って一歩を踏み出すこと、
そして強く願うことで、自分の道が開けることがあります。今はここから何を
つかむかが重要です。幸いUCFからこれまで多くのケアをもらい大変感謝です。
大学のeメールアドレスまで頂き、Novell GroupWiseを体験しています。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■編□集□後□記□
―――――――――――――――――――――――――――――――

アメリカに来て、コジマガ発行がこれで11回目となりました。残すところあと
半年ですので、このままのペースならば第80号まではお届けできると思います。
きっと日本に戻ると発行ペースは元に戻ってしまうので、100号まで達成する
には相当の時間が経過するかも知れません。

一方、研修ブログも書き始めてから183日目となり、継続によってかなりの分量
(文字数12万字以上、写真150枚以上)になりました。これだけ書いておけば、
後日の振り返りにも使えることでしょう。ブログにリンク設定していませんが、
すでにアクセス(自分を除く)が1100を超えており、日頃より読んで下さって
いる方に感謝です。

2011年2月13日日曜日

第70号(2011.02.13)

□ Nagoya Gakuin University, Faculty of Economics
□―――――――――――――――――――――――――――――
■□□> コジマガ kojimag@    第70号
□───────────────────――2011.02.13─――
□ Kojima seminar Mail Magazine, Vol.070
*等幅フォント(MSゴチックなど)でご覧ください。

2010年はiPhone4とAndroid携帯によって、スマートフォン元年になりました。
今年は各社からタブレットがぞくぞくと登場するのに加えて、春にはiPad2の
発表されるとの噂が世界中を駆け巡っています。2011年は、スマートフォンと
タブレット端末が入り乱れて、熾烈な競争を繰り広げながら新たな市場を開拓
してゆくものと期待されます。

また、これらの通信インフラにも大きな変化が見られます。日本でDocomoが
昨年末にLTEサービスを開始しました。アメリカでもVerizonがLTE用の携帯
新機種を市場にどんどん投入しています。無線による高速ブロードバンドは
LTEに加えて、無線LANからの発展形であるWiMAXとの競争によって、急速に
市場へ浸透するように思われます。

今年の通信関連市場の動向は見逃せません。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■アメリカ短信 > アメリカ経済の段
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:http://www.cnbc.com/

アメリカにいると日本の情報はほとんど入ってきません。ネットなどで自分で
情報を取りに行かないと全く分からない状況になります。幸いアパートメント
も研究所もネットは完備ですし、さらにiPhoneからでもアクセスできますので、
まずまず快適な情報環境と言えるでしょう。

日本人がアメリカ生活を送ると為替の動きにかなり敏感になりますが、地元の
人は円ドルレートに全く関心はなさそうです。そもそも円と元・ウォンなどの
区別がつかない人がいても不思議でありません。また、例えばカシオが日本製
ということを知りませんし、韓国製品と日本のそれと明確には意識していない
と思います。多くの日本人が海外事情にそれほど関心を示さないのと同様です。

テレビではCNBCが株や経済の専門チャンネルなので、これを見ると経済や社会
の動きや話題になっていることが把握できます。また、株式の話題では、日本
であまり馴染みのない企業の名前も覚えることができます。さらにバーナンキ
FRB議長が実際にインタビューを受けていたり、自らコメントを出す姿を見る
こともできます。日本では新聞記事でコメントを読むことはあっても、映像で
見る機会は少ないだけに、貴重な経験です。

さて、2008年のリーマンショックでは甚大な損失を被ったアメリカでしたが、
株価は以前の水準ぐらいまでに戻しています。やはり日本の不良債権処理の
失敗から学び、迅速かつ大きな措置を施した成果でしょう。そんなアメリカ
ですが、オバマ政権発足時に掲げた公約の実施は、思惑通りに実現できない
ようです。国民皆保険制度の「オバマケア」は大きな政府の象徴としてみな
され、異論が噴出しています。これ以上の国の借金はすべきでないという声
が大きくなっています。昨秋の中間選挙で米国民主党が大負けをし、閣僚も
入れ替えしたのは、あまりにも日本とソックリです。

S&Pが日本国債の格を下げた報道に対して、CNBCは日本の逼迫した財政状況
を引き合いに、オバマ政権の経済政策へ危機感を煽っていました。すなわち、
大きな政府ではギリシアや日本のようになってしまうぞということを国民に
警鐘しているようです。このようにテレビの専門チャンネルではアメリカの
政治・経済だけでなく、世界の動きにも大きな関心を払っているように思え
ます。(アメリカの外交は国務長官の役割ですから、アメリカにとって世界
事情も国務の範囲なのでしょうか。)

一般教書演説以降、オバマ政権は政策転換を図っているようですが、現実に
合わせ柔軟に対応しているように見えます。しかし、基本となる成長戦略は
不変です。日本との違いは、いかに持続的に経済発展させるかという視点が
ぶれていないことでしょう、昨今、日本市場から外資がどんどん逃げてゆく
のは、グローバル化への対応の遅れや危機的な財政状況下での国債依存体質
から脱却できないところにあります。何より、揺るぎない成長路線が描けて
いないのが一番の問題でしょう。

日本経済の動きはアメリカの市場動向をチェックしていると理解が容易です。
昨年11月18日にGMが再上場しました。これに呼応した形で、一時的に円高に
歯止めがかかりました。すると日経平均が上昇します。また北朝鮮が韓国に
攻撃を加えました。すると有事にはドルが強くなるので、直ちに円安に振れ
ます。さらに、アメリカの主要な経済データが発表になると、アメリカ市場
が大きく反応して、日本はその影響を受けます。このようにアメリカ経済の
大きな影響を感じます。やはり日本経済だけを注視するのでなく、アメリカ
というフィルタを通して世界経済を眺める重要性を再確認しました。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■UCFから
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:http://www.gsis.kumamoto-u.ac.jp/opencourses/pf/2Block/05/05-2_text.html

授業が行われるメインキャンパスには研究所に車を停めてシャトルバスで移動
します。いつも研究所の敷地内に停車するルート9番のバスを使っていました。

最初の授業日には、8時30分の開始時間にあわせて時間に余裕を持って停車所
で待っていました。しかし、バスはなかなか来ません。待っている間にルート
5番のシャトルバスが何本も通ってゆくのが見えます。時間が経過するにつれ
だんだん焦ってきます。仕方なくルート5番の停車所へ急いで移動です。9番
のバスはあまりに不定時なので、次回以降は5番のバスを使うようにしました。
研究所の周辺はパーク&ライドになっていますので、第3週目からはルート5
のバス停近くのパーキングに車を停めることにしました。

毎回乗るバスには常連さんがいることも分かってきました。バスの中で学生は
音楽を聞いたり、宿題をしたり、本(nookも)を読んでいたりとさまざまです。
日本と違うところを一つ発見しました。居眠りをする、またはしようとしてる
人がいないということです。日本ならば、どんな短い時間でも寝ようとする人
はいます。また、終点が目的地のバスですから、寝ていても乗り過ごす心配は
ありません。でも、この車内ではまだ見かけたことはなく、日本の通勤・通学
風景とはちょっと違います。

さて、授業も第5週目を過ぎてくるといろいろなことが分かってきます。まず、
インストラクタである教員の指示にしたがって、学生が全員ネットから書類を
ダウンロードし、プリントアウトしてきます。授業のルールとして当然のこと
ですが、日本ならば「プリンタがない」「パソコンが壊れた」など、さまざま
な言い訳とともに提出できない学生もしばしば見られます。もちろんUCFでは
大学からノートPCを全学生に渡しているわけではありません。そうでなくとも
ICTの要求もきちん守れる環境に驚きです。授業での約束事(プロトコル)が
しっかり提示されていますが、それが守られているようです。

次に、学生の学習到達度と目標が明らかになっていることです。これを遂行上
で重要な書類がルーブリック(Rublic)です。学生はこれまでの成果(自分で
作ったレポート及びチェックされたメモなど)を紙のファイルにまとめますが、
ルーブリックが一緒に用意されています。ルーブリックとは授業での達成目標
(複数)に対して、どこまで進捗しているのかかを明らかにした表のことです。
学生はそれを見ながら、これらか自分の努力すべき点を確認してきます。

また、事前に読んでおくべき文も学生は読んできているので、face to faceの
授業も上手く展開できています。最近、サンデル教授の「ハーバード白熱教室」
が日本で話題となっているようで、大学が目指すべき理想の授業形態のように
扱われているように思えます。しかし、注意が必要なのは、このような授業の
前提には教員の努力・能力もさることながら、学生たちの事前の準備が求めら
れていることです。何の準備もなく聞いているだけの学生とアメリカのように
事前の課題をこなして臨む学生とでは、アプローチを変えなければなりません。

1回あたり50分の授業ですが、20名以下のクラスサイズということもあってか
無駄がなく中身は濃いように感じてます。さらに週3回なので学生にとっては
ハードな授業のように思います。最初に比べて学生が少しばかり減ったように
思いますが、授業についてこれなくなりドロップアウトしたのかも知れません。
3割以上の学生がドロップアウトしてゆくアメリカの大学だけに、この状況も
分からなくもありません。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■編□集□後□記□
―――――――――――――――――――――――――――――――

先週、第45回スーパーボウルがテキサスで開催されました。やはりアメリカ
最高の舞台だけにいろいろなところで話題になっていました。当日は自宅の
アパートメントで観戦です。テレビで映し出されていた有名人にはブッシュ
前大統領とその側近たちもいました。

試合は、前半からリードを保ったパッカーズが優勝です。スティーラーズの
追い上げで3点差まで迫りましたが、やはり3回ものターンオーバーが勝利
の要因でしょう。試合だけでなく、ハーフタイムやTVコマーシャルが面白い
のも印象的です。ハーフタイムショーはコンサートさながらですし、また、
各社が競ってCMづくりをしているのがよく分かります。いつトイレに立って
よいかに悩みました。これでアメフトもシーズンオフです。

2011年1月17日月曜日

第69号(2011.01.17)

□ Nagoya Gakuin University, Faculty of Economics
□―――――――――――――――――――――――――――――
■□□> コジマガ kojimag@    第69号
□───────────────────――2011.01.17─――
□ Kojima seminar Mail Magazine, Vol.069
*等幅フォント(MSゴチックなど)でご覧ください。

日本が大雪に見舞われている情報は、Twitterやメールなどから入ってきます。
寒中お見舞い申し上げますとともに、降雪でも日々の仕事や大学では期末試験
もあって、読者の皆様はどうかご無事に遂行できますよう祈念しております。

フロリダでは寒波が過ぎた後、一転して好天に恵まれました。寒かった翌日、
20度を超える暖かさにアパートメントのプールサイドでは、早速、日光浴を
楽しむ住民がいました。さすがにそこまで暑くないでしょうと呆れてしまい
ますが、寒暖の感覚はどうも日本人とは違うようです。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■アメリカ短信 > 新学期開始と作文授業の段
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:

前号でもお伝えしましたが、アメリカでは新年早々、新学期がスタートです。
4月いっぱいで春学期はほぼおしまいになります。

今学期から学部の英作文の授業に出させてもらっています。授業内容は大学
における研究レポートの作成です。全学に複数開講されており、初年次生が
履修する科目です。共通教材に目を通してみると、日本の大学でもその内容
を教えるべきだと痛感します。

アメリカ研修期間中は毎日のようにブログを更新しているわけですが、日頃
から作文の練習は必要です。何事もしばらく離れていると、どんどん下手に
なっていきますので、日本語の練習として良い機会と思っています。また、
かつてはホームページ作成、その後はブログ、最近ですとツイッターを学生
に推薦しています。これは人に見られる文章を書く訓練となるからです。

余談ですが、最近、Twitterで気になることは「つぶやき」だからといって
ワンフレーズだけを残しても、あまり作文練習にはなりません。また将来の
自分への振り返りにもなりません。さらに、発言集はライフログとなるので、
その時の勢いから出たつぶやきが禍根を残すことになる恐れもあります。

学生が提出する作文レポートを見ていると、驚くべき体裁のものに遭遇する
ことは珍しくありません。漢字変換ミスや言葉遣いの誤りなどは瑣末な部類
で、例えば、句読点がない文、主語がない文、段落がない文章・・・これは
学年を問わずさまざまです。無茶苦茶な文章を多様化とか個性とかだとして
履き違えるケースもあり、日本の活字文化の継承に危機感を覚えます。

このような状況ですと卒業論文はおろか授業のレポート、就職活動で必要な
エントリーシートさえも書けないはずです。彼らに話を聞けば、小中学校で
作文練習、高校では小論文の訓練をやっていないそうです。一方で、文章の
形式が整っている学生には、受験対策として小論文講座などで何度も作文の
練習した経験があるという傾向があります。こうして考えると、入学試験に
知識の詰め込み科目に加えて、小論文を課して、全国的に受験対策をさせる
のは即効性があるように思います(大学側の採点が大変になりますが・・)。
また、文章が得意な学生に共通する点は、読書好きであったり読書量が多い
ことです。学術機関において読書を推奨することは当然ですが、全ての学生
に対して、なかなか読書習慣を確立させるのは至難の業です。

文章指導はなかなか面倒なだけに、多くの先生が目をつぶってしまいがちな
課題ですが、まず「型にはめる」ことで基本までは形成することができます。
「日本語表現」なる必修科目が設置されているにもかかわらず、作文の基本
が全くできていない学生も多く、文章の書き方はあまりにもまちまちです。
ですから、1年生から4年生までのゼミでは、一旦、型にはめてしまうという
無茶な教育手法を行っています。

まず文章を書かせた上で、基本的な知識(適切な単語選択から句・節・段落、
章、接続詞、代名詞など)からよくあるミス(おかしな表現)の修正などを
相互にチェックさせます。もちろん、インデントや脚注など基礎的な日本語
ワープロの使い方も含めて実施します。こうして相互に文章のダメ出し作業
を数回行えば、ほぼ全員が基本的な作文スタイルをマスターできます。一度、
自分の型ができると学生は文章が書きやすくなっているようです。

過日、研究所の同僚がランチの際に話してくれましたが、アメリカも新入生
のクラスのレポートはひどいと嘆いていました。このようにどの国でも同じ
ような教育課題を抱えています。アメリカではそれを組織的に取り組み解決
への道筋をつけています。また、作文の技術は将来、必ず役立つ基本スキル
だけに初年次からきちんとした訓練が必要でしょう(それらを必要としない
超優秀な機関を除く)。もちろん、分野ごとに文章の書き方は異なりますが、
それを教えた上で、授業のレポートから研究論文へのプロセスを示す授業が
日本の大学教育でも求められていると思います。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■UCFから
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:https://webcourses.ucf.edu/

新学期が始まって、いよいよ実際のブレンド型の授業を体験することになり
ました。授業は教養関連科目なので、メインキャンパスにあるClassroom1で
行われます。授業開始は朝8時30分ですが、時間前には講義室前の廊下の床に
座っている学生(いわゆるジベタリアンです)を多く見かけます。本人達は
だらしないと思っていないのかも知れませんが、このような若者の姿は日米
一緒です。

アメリカではタバコは高額なので、喫煙者は日本に比べかなり少ないような
気がします。それでも、キャンパス内で歩きタバコ姿やタバコの吸殻が散乱
しているのは目につきます。まだ教室で食事をする学生には会っていません
が、先生からの諸注意に記載されているので、こちらでも問題なようです。
授業中に帽子をかぶっている学生、スケボー持参の学生などさまざまです。
大学にもよるのでしょうが、全体として日本の学生の方が礼儀正しいのかも
知れないと思いました。

学生に感心するのは、教員が皆で話し合いを指示するとためらうことなく、
直ぐに始めることです。また、教員の問いかけにも手を挙げて答える学生も
少なくありません。講義にメリハリがある(微妙な間がない)という感じが
します。

普段、90分の授業に慣れているので、50分授業は大変短く感じます。しかし、
週に3回授業がありますので、90分☓3回☓16週ですから日本の授業時間より
多くなります。当然のことながら毎回しっかり宿題があり、予習は必須です。
遅刻する学生やテキストを持っていない、すなわち予習をしてこない学生の
対応なども興味があります。週3回のうち1回(金曜)がWebでのオンライン
学習になります。

新学期が始まるとブックストアは賑やかになります。店内奥のエリアには
教科書がずらりと揃えられており、多くの学生たちが自分の授業に必要な
テキストを探しています。

知ってはいましたが、こちらのテキストは高すぎます。新品では$100以上
するのも珍しくなく、中古品でその3割引ぐらいでしょうか。日本でも分野
によっては高額な場合(特に、医歯薬系)もありますが、主に学部生が使う
経済学の教科書で5000円以上はまずありえません。しかし、アメリカの大学
で使う経済学関連テキストは$100以上が当たり前です。厚みがあるだけに
ページ単価で考えれば良いのかも知れませんが・・・。

担当の先生は、学生はお金が無いことに配慮し、授業で必要な箇所を講義
プリントにまとめるなどという対応をしています。一方、日本では比較的
安いにもかかわらず、学生はなかなか教科書を買おうとしません。授業で
毎回きちんと使わないのも問題ですが・・・。学期末テスト前に持ち込み
物件が発表され、「テキストのみ可」という本だけが売れるという何とも
情けない状況です。これ幸いに自著をさばくという教員もいますが、昔に
比べると少なくなってきたように思います。

アメリカの大学内での物価は、日本に比べるとかなり高いように感じます。
まだまだ日本は恵まれているのでしょうか?じっくり再考してみる必要が
ありそうです。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■編□集□後□記□
―――――――――――――――――――――――――――――――

1月の第3月曜日は、マーティン・ルーサー・キング・ジュニアの誕生日で
祝日になります。誕生日が祝日になるのは、大統領では初代のワシントン
とリンカーンの2名だけで、大統領以外では彼だけです。

キング牧師で有名な演説に"I have a dream"があります。ささやかですが
私にも夢があります。少しでもこれに近づけるように日々過ごせることが
できれば、最高の人生でしょう。皆さんも夢に向かって楽しく進めるよう
異国の地より祈念しております。

2011年1月9日日曜日

第68号(2011.01.09)

□ Nagoya Gakuin University, Faculty of Economics
□―――――――――――――――――――――――――――――
■□□> コジマガ kojimag@    第68号
□───────────────────――2011.01.09─――
□ Kojima seminar Mail Magazine, Vol.068
*等幅フォント(MSゴチックなど)でご覧ください。


A Happy New Year!新年あけましておめでとうございます。
フロリダ州の別名はSunshine Stateだけに、眩く明るい新年を迎えるところ
として最高かもしれません。今年も皆さんにとって、素晴らしい1年である
ことを祈念しております。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■アメリカ短信 > アメリカの年末年始の段
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:

アメリカの年末年始を初体験です。アメリカで暮らした経験のある方ならば
当たり前のことでしょうが、やはり、実際に体験しないと分からないことが
多いので、大変勉強になりました。

クリスマスの24日と25日は、両日ともアメリカ人のお宅で開かれたパーティ
に加えてもらうことができました。

まずイブの24日は、こちらで知り合った日本人の方に誘われて、ココビーチ
方面に住んでいるアメリカ人宅でのクリスマスパーティへご一緒させていた
だきました。パーティのホストはじめ、何人かはすでに顔見知りでしたし、
日本人も2名参加しているので気軽な雰囲気です。

大きな家でのクリスマスパーティは初めての体験です。ダイニングキッチン
にはたくさんの食事やお酒が用意されており、皆が思いおもいに食べながら、
話で盛り上がっています。ちなみに、アーノルド・パーマーがオーランドに
住んでいることを知りました。また、クリスマスならではの飲み物として、
エッグノック(Egg Nog)に挑戦しました。ここにラム酒を入れると香りや
テーストも最高です。ただし、高カロリーなので注意が必要とのことです。
最後は、クリスマスケーキとコーヒーで大満足でした。

翌日は、研究所の同僚が自宅でのクリスマスディナーに招待してくれました。
誘われた時に、信仰する宗教を聞かれました。初めて聞かれた質問で戸惑い
ましたが、にわか仏教徒なので、No Religionです。多くの日本人と同様に
正月には神社に参詣し、仏前で合掌します。これまでも仏教系の学校に通い、
勤務先はプロテスタント系という、何ともいい加減な宗教観です。

クリスマス当日は、さすがに休日だけあって、街中を走っている車が非常に
少ないように感じました。彼の自宅には4家族が集まっており、大勢の方に
グリーティングです。その後、邸内を案内してもらいました。ガレージには、
彼の趣味である釣り道具や小型ボートがあり、ここあるキャンプ用グリルで
クリスマス用の肉を焼いています。いくつかある部屋のうち、彼の奥さんの
弁護士オフィスがありました。

全員が食卓についたところで乾杯、クリスマスならでは食事です。お嬢さん
に教えてもらったクリスマス定番の料理であるグリーンビーンキャセロール
(Green Bean Casserole)がなかなか美味です。ディナーの後には、今度は
デザートです。その後、皆が居間に集まり、何故かウクレレ(ukulele)が
出てきて、彼のお父さんのFlukeによる伴奏でクリスマスソングを歌います。
この時ばかりは、クリスマスソングをきちんと英語で歌えるようにすれば
よかったと後悔した瞬間でした。

このように連日、アメリカ人宅でのクリスマスパーティを体験できました。
プール付きの大きな家で、皆が集まり楽しそうに団欒をします。豊かさを
測るモノサシはありませんが、日本とは違った豊かさがここにはあります。
ただし、幸せはさらに別の次元ですが・・・。

さて、クリスマスが終わってもアメリカのバケーションは続きます。特に、
クリスマスセールは活気があり、クリスマス1週間前頃からプレゼントの
買出しでモールなどは大混雑です。その後もセールは続いて、正月を過ぎ
ても街中にはクリスマスツリーやリースも見かけます。また、音楽もまだ
クリスマスソングが流れてきます。しかし、日本と違うのは、定番である
Wham!のLast Christmasがほとんど聞かれないことでしょうか。

大晦日はカウントダウンです。至る場所でカウントダウンパーティがある
ようです。夜8時頃でもテーマパークへ向かう車もありますし、ダウン・
タウンディズニーあたりでも多くの車が走っていました。

知り合いの方のコミュニティでカウントダウンパーティがあるというので、
これに加えてもらいました。この時期は、自宅やその周りを電飾しており、
とても綺麗です。ガレージ前にテーブルを出し、多くの料理が並べてあり
ます。子供達もこの日ばかりは親たちの監視の下で遅くまで遊んでいます。
石炭で暖をとって、プロジェクターでNYのカウントダウン中継を待ちます。
カウントダウンの前後には打ち上げ花火が各コミュニティで行われました。
とりわけ、素人が花火を打ち上げるのに驚くばかりです。

こちらも元旦は祝日ですが、聞いていたよりもショップは開いていました。
最近は日本の正月もかつてより営業する店が増えたように、アメリカでも
そうなのでしょうか。ただ、テレビで流れてくる新年の音楽が「蛍の光」
というのは、日本人としてはどうも違和感を覚えます。

日本のクリスマス・年末年始とは全く異なるので、アメリカの風習を存分
に楽しむことができました。しかし、異文化を理解するには時間がかかり
ます。数年、暮らしてみてようやく本質が分かってくるのかも知れません。
日本は、同じアジアでも旧正月を祝う韓国や中国・台湾とも異なります。
独特な文化だけにずっと大切にしたいものです。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■UCFから
―――――――――――――――――――――――――――――――
☆関連サイト:http://www.libertybowl.org/

UCFでは12月第2週頃から学期末試験やレポート期間となりました。試験
期間が終わりに近づくたびに、学生はキャンパスからどんどんいなくなり
ます。そして、クリスマスの1週間ほど前から研究所のスタッフも次々に
休みをとるようになり、12月23日(金)に大学全体が休暇になりました。

年の瀬は大学にいても感じることができます。まず、クリスマスが近づく
と、大学に特設のアイススケートリンクや観覧車などがオープンしました。
また、アメリカンフットボールは、大晦日に開催されたリバティ・ボウル
も勝利し、UCFにとって本当に素晴らしい1年の締めくくりになりました。

1月はスタートの月です。こちらでは新年早々、仕事や学校が始まります。
今年は、たまたま2日が日曜日だったので3日が始まりでしたが、普段は
2日から始まるそうです。確かに研究所では3日は駐車場が満車でしたし、
道路には地元の小中学校のスクールバスも走っていました。大学の授業は
まだ始まっていませんが、大学スタッフは新学期の準備として仕事モード
に入っています。

テレビもでは新しく選出されたフロリダ州知事が1日から仕事を開始した
というニュースが流れていました。公的機関では、新大統領も年明け早々
から仕事というスタイルは日本ではよく分かりませんでしたが、こちらに
来て、ようやく理解できました。

来週からUCFではいよいよ授業が始まります。これから夏までのセメスター
で学生たちはどれだけ進歩を遂げるのでしょうか。


―――――――――――――――――――――――――――――――
■編□集□後□記□
―――――――――――――――――――――――――――――――

年末年始を海外で過ごすということは初めてです。やはり仕事が気になると
出かけるだけの余裕がありません。しかし、今回はアメリカのペースにあわ
せることができたので、初めてのロングバージョンになりました。加えて、
オーランドは温暖で観光都市だけに時間を持て余すことなく、有意義な休暇
となりました。

残り9ヶ月の滞在ですが、これまで以上にアメリカを存分に体験し、理解し
たいと思っています。コジマガやブログ・Twitterなどで素晴らしい内容が
発信できるようにする所存です。